漫画家が編集者を選ぶとき、アシスタントを選ぶとき、実際にどう考えるか
はじめて師事する作家をどう選ぶか
初めの頃、僕自身はこのことについてはずっと悩みのタネでした。信用していい相手を見極めることは、一般社会人の世界と違い、この界隈ではとても難しい課題です
画力? 実績? 経験年数? スキル? コミュニケーション力? 肩書き? 非正規雇用か正社員のどちらなのか? 会社のブランド力?
どれも驚くほどアテにできません
それで僕は一つの方法を使うようにし始めました
まずはじめて相手とお話をするときに、ストーリーを考えます。ストーリーはこうです
「僕とその人の二人で漫画を作った。その漫画を本にしたので、冬の寒い日に二人で駅前で販促をすることになった」という設定です
その人は担当編集者かもしれないし、アシスタントかもしれません。自分が漫画家志望者で相手は漫画家、或いは自分が編集者で相手は漫画家でも良いでしょう
そのシチュエーションを想像して、相手が何をしているか、言っているか
笑顔を作り、二人で声をあげて元気に販促している姿なら最良です
でもひょっとしたら、「なんで俺がこんなことしなきゃやんなきゃなんねーんだよォ!」と相手がキレてる姿が浮かぶかもしれません。「不服そうな表情丸出しでやる気なさそうにビラを配る姿」かもしれません。「◯◯さんは喫茶店で休んでてください、俺の作品だし一人でやります」って気を遣っている自分の姿かもしれません。「二人揃って面倒なんで配ったことにして破棄して帰ろう」とかしてるかもしれません。会社の愚痴を言ってる姿もあり得るでしょう
どれも最悪です。
初対面で相手の情報がほとんど見えないなら、このやり方で、どうでもいい雑談をしながら、相手の人間性を見極めます。初対面の10分でも、2時間でも、自分の想像した世界がイメージできるまで言葉を交わし、時間切れになるなら、それは相手がこちらに組んで何かをしようという気持ちがないと判断する。
ところで、「僕とその人の二人で漫画を作った。その漫画を本にしたので、冬の寒い日に二人で駅前で販促をすることになった」なんていう設定にしたのは、出版物の基本が印刷して頭下げて配るということだと考えているからです。それは起承転結といったフォーマットや、デッサンの手法や、キャラクター作りよりもずっと前提にあるものだということです