再びお金を貯める

アシ生活を離れた後、ぼくは道を失っていました
やんちゃにしているほうが視線が集まるのはわかる
それは漫画に限らず、アート全般の法則だろう
編集者に気に入られ、書店担当者に気に入られ、(同人誌なら)即売会のスタッフに気に入られ押し上げられて人気者になったとして
でも、その人が人を雇い扱う術をもっている保証はない
ただ力技で勝ち(それは実力ってやつですらないかもしれない)、相手を奴隷として取得するだけの古典的な戦争のような世界
そこはアスリートの競争の世界ではなかったし、ビジネスの世界でもなかった
殆どの漫画家が歳をとるとあっさり衰える理由がわかる気がしました
自分はそこに居たいのか、そうまでして描きたいものが自分にあるのか、答えがでそうにはありませんでした

作画にクオリティを出す術を身につけることが目的の一つだったけれど、持ち込みをするためになにか漫画を描く気も失っていました
漫画にたいする憧れもなくなっていたし、漫画家の言葉は信じてはいけないな、と思うようにもなっていました

お金を貯めなおす間に、どうするか、答えを探そう、ひとまずそう結論づけることにしました

今度は、古本屋のバイトと違って、ガッツリ短期で稼げるところを探そうと考え、深夜の清掃バイトを選びました
このバイトはいわゆるブラックバイトでした
月に30万ちょっとずつ貯められれば、3ヶ月で100万にはなる、そう考えていたけど
移動時間は仕事の時間に含まない、とか客からクレームが入ったら自費で再清掃に行かなければならない、とか
普通は夜に2件行くところを3件も4件も5件も回っていたりとか言う風になっていました
現場は茨城とか群馬のケースもあり、朝のラッシュに巻き込まれると1日に5時間が無駄になりました
夕方に始まることもあれば、深夜ギリギリにはじまることもあり、終わる時間も早朝もあれば昼をまわっていることも
計算したら、結局月に25万くらいにしかなっていませんでした
最悪なのは薬品で、外壁などを洗うものはうっかり手にかかるとやけどみたいになってひどいことなりました
その時期はアンソロの原稿を受けていたので、やけどみたいになった手でペン入れすると激痛がはしったが我慢して描くことにしました
深夜の労働は生活のリズムにも良くないようでした

バイトの面々は、日本語が全く喋れない外国人や家のないおじさん、そしてバンドマン
バンドマンたちはどうやら知り合いらしく、そのバイトの職場は彼らによって占領されているようでした
社員もいたけど、ほとんど空気だった
軽のバンで移動するのだけど、遅刻してきている仲間がいると、その人の家の前まで行って起こして拾っていったりしていました
二人くらいがリーダー格っぽい人がいて、その一人のバンドは人気があるようでした
仕事もできて、バンドも人気があって、彼は成功しているという風に仲間には評価されていました
もう一人のほうは清掃の仕事に詳しく、何かあれば彼に聞け、と言われるくらいだったけど、バンドについては何も語りませんでした
彼は屁を我慢できないらしく、いつも屁をしていました

このままでは不味い、と思ったので、別のバイトに応募しました
携帯電話のデータ入力で、月に20万くらいにしかならなかったけど、生活時間は安定していて仕事もとても楽でした
シフトも驚くほど柔軟で、1日に3時間とかでもいいし、1ヶ月に3日出勤とかもOKでした
仕事場はほとんどが女性が占めていて、人間関係が広がらなかったが、逆にそれが楽でもあった
週5でシフトを入れて同人誌の原稿とアンソロの原稿を家に帰って描き続けました